質問
先日、姉が亡くなり、末妹である私を含む兄弟4名(私とABCD)が相続人になりました。その後、長男であるAに他の相続人(BCD)が相続分を譲渡し、これを前提に、Aは私だけを相手方として家庭裁判所に調停を申し立てました。Bと協議したところ、Aに譲渡した相続分を私に譲渡してもいいと言っています。このようなことはできるのでしょうか。
そもそも、相続分の譲渡とはどのようなものですか。相続分の譲渡はどのような場合に行うものなのでしょうか。
回答
相続分の譲渡とは、共同相続に際して各共同相続人が取得する遺産総額に対する分数的割合(相続分)を譲渡することをいいます。
相続分の譲渡は、実務上、遺産分割協議・調停で当事者が多数となる事案について、紛争を好まず遺産の取得を望まない相続人や出頭困難な当事者があり、手続の進行に支障が予想される場合に、これらの者の相続分を特定の相続人が譲り受けることにより手続から脱退させて相続分を集中させ、紛争の効率的な解決を図るために用いられます。
相続分譲渡は、有償でも無償でも構いません。
実務上、相続放棄をするために無償で行われることもあれば、遺産分割協議に先駆けて自身の相続分に相当する経済的利益を獲得する手段として有償で行われることもあります。相続分の譲渡は第三者に対して行うことも可能ですが、実際には共同相続人間で行われることが大半です。
さて、上記事例は、いわゆる相続分の二重譲渡の事案です。
結論から説明しますと、先の譲渡が有効となり、後の譲渡は無効となります(和歌山家裁昭和56年9月30日審判)。
相続分譲渡については、不動産のような登記制度もなく、債権譲渡のような通知による対抗も予定されていません。その結果、先に相続分の譲渡を受けた者が、後に譲り受けたものに優先することになります。