では、実際に遺留分を算定する際には、どのように考えていくのでしょうか。
遺留分権者の具体的な遺留分を算定するためには、前提として、遺留分算定の基礎財産を把握する必要があります。
遺留分算定の基礎となる財産は、
(相続開始時に被相続人が有していた財産)+(贈与財産)―(被相続人の債務)
により算定します。
贈与財産が加算されているのは、被相続人が死亡する直前に所有財産のほとんどを他人に贈与していた場合に、遺留分制度の目的を達成できなくなるからです。
基礎財産に遺留分割合を掛け合わせた金額が遺留分額になります。
基礎財産に加算される贈与財産は、取引の安全に配慮して、原則として、相続開始前1年以内にされた贈与に限られています(民法1030条前段)。
したがって、相続開始前1年前よりも過去になされた贈与は、基礎財産に算入されず、遺留分減殺請求の対象にもなりません。なお、「相続開始前1年以内にされた贈与」とは、贈与契約が相続開始前1年間に締結されたことを意味しており、1年以上前に締結された贈与契約について相続開始前1年間に履行されても、遺留分減殺請求の対象にはなりません。
しかし、これには3つの例外があります。
例外1 遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与(同条後段)
相続の1年前よりも過去にされたものであっても、遺留分算定の基礎財産に算入されます。遺留分を侵害する認識があればよく、損害を加える意図や誰が遺留分権利者かを知っている必要ありません。なお、損害を加えることを知ってなされた贈与であることの主張・立証責任は、遺留分減殺請求権者が負います。
例外2 不相当な対価でなされた有償処分
契約当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った場合に限り、贈与とみなされ(民法1039条)遺留分算定の基礎財産に算入されます。この場合、処分行為の時期を問わず、正当な価額との差額が贈与として基礎財産に算入されます。
例えば、亡くなった方が愛人に対して、月額家賃相場30万円のマンションについて、月2万円で貸し与え、10年間経過したところで被相続人が亡くなった場合には、
(30万円-2万円)×12か月×10年=3360万円を基礎財産として算入することができます。
例外3 特別受益としての贈与
共同相続人のなかに、被相続人から生前に婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けていた場合には、相続開始1年前であるか否か、損害を加えることを知っていたかどうかに関わらず、遺留分算定の基礎財産に算入されます(民法1044条による同法903条の準用)。なお、過去の贈与の価格の評価時期は、相続開始時であり、相続開始時の貨幣価値に換算して評価します。